黄金旅風

飯嶋和一著。読み終わりました。独特の清々しい読後感は健在、装丁も美しいです。

黄金旅風

黄金旅風

切支丹弾圧と徳川家光による貿易統制(鎖国)にゆれる長崎を舞台に、代官職を継いだ男が民衆のために長崎奉行の野望を砕こうとする物語です。
「始祖鳥記」「雷電本紀」と同じく、苦難の時代に生きる人間を、綿密な取材と緻密な描写で表現しています。この三作はどれも、「力」を持った「正しき」人間が、非人間的な時代の流れに逆らって、成すべき事を成そうとするという物語で、そういう意味ではどれも善悪が非常にはっきりした娯楽小説です。
しかし、読んでいてもっとも面白く感じるのは、細部の描写の積み重ねから来る作品世界との一体感でしょうか。登場人物の感覚や、それを培った環境・・・匂いや手触りが感じられるほどに細かく、しかも抑制された筆致で描いています。読んでいると、江戸時代初期の長崎が現代の日本と、あるいは私の日常と地続きなのだと感じられるのです。現代との相似を見出すのではなく、長い歴史を経てなお・・・地続きであるという感覚です。おそらくここがほかの歴史小説とは違う飯嶋和一の個性なのでしょう。
惜しむらくは私が勉強不足でこの時代の「もの」や「言葉」を知らなかったこと。知識のある人は、もっと楽しいんだろうなあと思うとちょっと悔しいですねえ。