憎しみの連鎖

山本浩著。正確にはNHKスペシャルセレクション憎しみの連鎖(スパイラル)―アルカイダ工作員の実像という長い書名。実はと学会のヤマモトヒロシを検索していて、別の山本浩さんがヒット、偶然出会った本です。

財力のビンラディンと思想のザワヒリの二頭立てによる国際テロ組織アルカイダ・ネットワーク。それに連なる工作員たちの実像を取材し、リアルに描写する。憎しみの中に見えるテロリストの実像とは?

取材に基づく臨場感のある内容で、3部構成となっています。文章は平易で読みやすい。


第1部 アルカイダの影の支配者アイマン・ザワヒリ
ビンラディンに次ぐナンバー2とされるエジプト人ザワヒリの変遷と、アルカイダの成り立ちについて。


第2部 流浪のテロリスト、アハマド・ナッガール
いわゆる幹部ではない「普通の」テロリスト、ナッガールという男の生涯について。


第3部 アルカイダを追跡する
同時多発テロ以降の各国のテロリスト捜査について。


第2部がとても印象的です。エジプトの農村に生まれたナッガールは純粋で能天気な人のよい男。人の役に立てればと、頼まれもしないことを引き受けようとします。それ故に高校生でムスリム同胞団入り、そしてジハード団、アルカイダとテロリスト街道まっしぐらの人生を送ることになるのです。
そんな彼の日常というか、テロリストの「現場仕事」が、間抜けなエピソードを含めて描かれています。資金が尽きてみんなで仕事を探す羽目になるとか、苦労して国境を越えたもの飛行機の故障やなんや不運が重なり戻ってきてしまうとか、秘密を守るため命令は口頭での簡単な連絡のみで現地に行ってはじめて目的を知るとか・・・日本のサラリーマンでも共感できそうなエピソードが満載です。だからこそ、やたらと切ない話です。
なぜなら、これらのナッガールの話は拘束後の拷問による供述で明らかになったもので、彼は既に死刑となっているのです。