人類がたどってきた道―“文化の多様化”の起源を探る

海部陽介著。著者は国立科学博物館人類研究部研究官。ホモ・サピエンス誕生から世界中に拡散していった時代までの人類史を、最新の発見や研究成果を盛り込んで俯瞰・概説した本です。非常に刺激的で面白かったですね。
先日読んだ「ネアンデルタールと現代人―ヒトの500万年史」(id:SIM:20051020)が人類誕生から様々な系統の人類の発生、そして直接のご先祖ホモ・サピエンスが現れるまでに焦点を当てていたので、ちょうど「続き」を読んでいるような感じでした。

人類がたどってきた道 “文化の多様化

人類がたどってきた道 “文化の多様化"の起源を探る (NHKブックス)

人類が宇宙へ進出できる原点はここにある
人類最古の幾何学紋様の刻まれた石器が約8万年前の地層から出土した。抽象的な思考、それを表現する能力をもっていた証拠であり、現代人に劣らぬ「文化」を得ていたことになる。氷河を越え大海に漕ぎ出し、地球全土に拡散していった人類の足跡をこの「知の遺産仮説」に基づき辿り直す。

表紙の写真が紹介文にある「約8万年前の地層から出土した幾何学紋様の刻まれた石器」です。「知の遺産仮説」はアフリカに住んでいたご先祖の集団(私たち人類の遺伝子のバラつきが少ないことから小集団と推測されている)が世界各地に広がる頃から(少なくとも5万年以上前から)遺伝だけでなく文化の伝承も行われて現代文明に至っているのではないか・・・という仮説です。ハードウエアだけでなくソフトもずーっとコピーされ続けて進化してきたというわけです。


この本では、ご先祖がアフリカを出て世界に広がる様子を、人骨化石、石器、遺跡、芸術などの証拠から、生き生きと描き出しています。論文調なのに不思議と読んでて楽しいのです。図版や写真も豊富なのもいいですね。このジャンル私は門外漢なので、詳しい方がどうみているのか気になって、いくつか書評を見たのですが概ね好評のようです。

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今年、刊行された人類学関係の一般概説書の中で間違いなくベストだろう。一般向けの概説書という性格に相応しく、興味をそそられるような図版を多用し、内容は平易で分かりやすい。それだけでなく、筆者には筆力(「読ませる力」)がある。また、専門書を読む人間にとっても勉強になることが多く、類書にはない新知見が盛り込まれている。